大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(行ケ)123号 判決 1996年2月29日

神奈川県厚木市上依知上ノ原3034番地

原告

日本フルハーフ株式会社

同代表者代表取締役

入江義朗

同訴訟代理人弁護士

青木康

同訴訟代理人弁理士

荒垣恒輝

大阪市中央区北浜4丁目7番28号

被告

日本トレールモービル株式会社

同代表者代表取締役

得能温雄

同訴訟代理人弁護士

湯浅正彦

同訴訟代理人弁理士

藤木三幸

主文

特許庁が平成4年審判第432号事件について平成6年3月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「冷凍コンテナにおける内部隅部構造」とする考案について実用新案登録第1869772号(昭和57年4月30日登録出願、昭和63年7月12日出願公告、平成3年10月24日設定登録。以下「本件実用新案登録」といい、その考案を「本件考案」という。)の実用新案権者であるが、原告は、平成4年1月10日、本件実用新案登録を無効にすることについて審判を請求し、平成4年審判第432号事件として審理された結果、平成6年3月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年4月27日原告に送達された。

2  本件考案の要旨

各壁部に所定厚さの断熱材層を設け、且つ該断熱材層の内側を所定の内装部材にて内装してなる冷凍コンテナにおいて、角部内側に嵌合部を備えたL形メンバを該コンテナの隅部に配し、かかるL形メンバに、該コンテナの隅部を構成する隣り合う内装部材の端部をそれぞれリベット、ネジ等の固定部材にて固定せしめて連結する一方、該L形メンバの角部内側の嵌合部に対して背部において凹凸嵌合構造にて嵌合せしめられて、保持され、該コンテナ隅部を内側から覆うと共に、該固定部材を覆い、該固定部材がコンテナ内側に突出しないようにした、略円弧状の横断面形状を有するコーナーカバーを設け、該コーナーカバーにて、前記固定部材による該内装部材と該L形メンバとの固定部を水密に覆蓋せしめるように構成したことを特徴とする冷凍コンテナにおける内部隅部構造。(別紙図面1参照)

3  審決の理由

審決の理由は別添審決書写し記載のとおりであって、その要旨は、本件考案はその出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証(特公昭56-21669号公報)、第2号証(実願昭和47-51705号の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフィルム)及び第3号証(上村健二著「冷凍コンテナ便覧」 株式会社成山堂書店・昭和49年1月18日初版発行)に記載された事項に基づいて、あるいは甲第1号証及び第4号証(特開昭52-19442号公報)に記載された事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものということはできず、本件考案を無効とすることはできないとしたものである。

(なお、甲第1号証、第2号証、第4号証については、別紙図面2、3、4をそれぞれ参照。)

4  審決の理由に対する認否

審決の理由ⅠないしⅢは認める。同Ⅳのうち、相違点の認定において甲第1号証記載のものにつき、「該コーナーカバーの両端部と該内装部材の端部との接合面を水密に構成した」ものと認定した部分は争い、その余は認める。同Ⅴ(1)のうち、甲第2号証に記載されたものは、風呂の箱体ユニット等において組み立てられる構造物の一つの壁材と他の壁材とを接合する構造に関するものであり、その技術的課題は壁材と壁材の継ぎ目からの水漏れを防止するものであること、甲第3号証には、「水洗いにより断熱性能が低下しない構造とされている」、「内張り取付けリベットの頭部はなるべく平滑とし、かつ該面よりの突出は極力少くしてある」と記載されていることは認めるが、その余は争う。同Ⅴ(2)のうち、甲第4号証に記載されたものは、バスユニット、サニタリーユニット等の「衛生設備ユニットにおける目地材取付装置」に関するものであり、甲第1号証記載の冷凍ユニットを有する「海上コンテナの内部隅部構造」に関するものとは、「隅部の防水という機能ないし作用の点で共通するものであり、隅部の防水構造として一般に求められている目的ないし課題を考えれば、必ずしも異なった技術分野の考案とはいえない」との部分は認めるが、その余は争う。同Ⅵは争う。

5  審決を取り消すべき事由

審決は、本件考案と甲第1号証記載のものとの相違点についての判断を誤り、また、両者の相違点の認定を誤って、本件考案の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(相違点についての判断の誤り-その1)

審決は、本件考案は甲第1号証及び第4号証に記載された事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない旨判断しているが、以下述べるとおり誤りである。

<1> 甲第1号証には、「本発明は・・・その要旨とするところは、・・・十分な水密性を与えることにより、<1>飛散する汚濁物の滞留し難い、<2>洗浄容易な、<3>従来以上の強度を維持し得る、<4>水密性を有する、<5>冷却効果を損ねない、<6>食料品の積載スペースを減じない、内部隅部構造を提供することにある。」(3欄13行ないし21行)、「隅部材38の両端と内張部材段付部34a及び35a(34bは誤記である。)との接合面にはそれぞれコーキング処理を施すことにより、(40a及び40bにて示す)水密性を向上させる。」(5欄34行ないし6欄1行)と記載されているから、同号証記載の考案が水密の技術分野に属していることは明らかである。

甲第4号証には、「従来の・・・不十分であった隅角部の防水が、この発明によれば・・・水滴・湿気等の外部への侵出を完全に防止できる」(2頁右上欄下から6行ないし2行)と記載されているから、同号証記載の考案は防水の技術分野に属している。

上記のとおり、甲第1号証記載の考案、甲第4号証記載の考案はいずれも水密(防水)の技術分野に属しているから、両者の技術分野は共通である。

したがって、甲第4号証に記載されたものは、甲第1号証記載のものと、甲第1号証の技術的課題に関連した技術分野において共通しておらず、甲第1号証記載のものに甲第4号証に記載されたものを結び付け組み合わせることが当業者にとって格別創意工夫を要せずにできたとはいえない、とした審決の判断は誤りである。

また、本件考案は、「穴部をコーナーカバー等にて・・・覆蓋せしめることにより・・・断熱材の性能を低下及びコンテナの寿命の短縮化を防止し得」(甲第6号証3欄29行ないし34行)るものであるから、審決が、本件考案はコーナーカバーが無くても冷凍コンテナとしての機能は一応果たすことができる、としているのは誤りである。

<2> 本件考案は、密封(水密)構造に係る考案であって、国際特許分類における冷凍コンテナの技術分野に属するほかに、密封手段の技術分野にも属するものである。

甲第1号証記載の考案と甲第4号証記載の考案とが水密の技術分野において共通していることは上記のとおりであり、本件考案も水密の技術分野に属しているから、本件考案と甲第1号証、第4号証記載の各考案とは技術分野が共通している。

そして、本件考案と甲第1号証記載の考案との相違点として審決が摘示した構成は、甲第4号証にすべて開示されている。すなわち、甲第4号証には目地材4(半硬質の合成樹脂)を凹凸嵌合により取り付けて水密となし得る構造が開示されており、この水密構造は、本件考案においてコーナーカバーを凹凸嵌合により取り付けた水密構造と全く同一である。

さらに、甲第4号証には、浴室の天井壁部に設けた水密構造により天井裏が腐食するのを防止することが開示されているのであるから、それと同一の水密構造を冷凍コンテナに設ければ断熱材の劣化を防止することができることはだれでもたちどころに予測することができることである。

したがって、本件考案は甲第1号証及び第4号証に記載された事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえないとした審決の判断は誤りである。

(2)  取消事由2(相違点についての判断の誤り-その2)

審決は、本件考案は甲第1号証ないし第3号証に記載された事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない旨判断しているが、以下述べるとおり誤りである。

本件考案と甲第1号証記載の考案が水密の技術分野に属していることは前記のとおりであり、甲第2号証記載の考案は水密の技術分野にも属しており、甲第3号証には水密に関する事項も記載されているから、本件考案と甲第1号証ないし第3号証記載の各考案とは技術分野が共通している。

そして、本件考案と甲第1号証記載の考案との相違点として審決が摘示した構成は、甲第2号証にすべて開示されているから、審決が、上記相違点と甲第2号証記載のものとの構造上の対比を全く行わないで、「技術的課題を異にする」というだけの理由で本件考案の進歩性を肯定したのは誤りである。

(3)  取消事由3(相違点の認定の誤り)

審決は、本件考案と甲第1号証記載のものとの対比に当たり、甲第1号証記載のものは「該コーナーカバーの両端部と該内装部材の端部との接合面を水密に構成した」ものであるのに対し、本件考案は上記構成を有しない点を相違点として挙げている。

しかし、本件考案の実用新案登録請求の範囲には甲第1号証の上記構成については何も記載されていないから、本件考案の構成要件を充足している構造が、上記構成を備えていない場合も備えている場合もあることは見やすい道理であって、上記構成は本件考案と甲第1号証記載の考案との相違点には当たらない。

したがって、審決が上記の点を相違点と認定したのは誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同5は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

考案は物品に係るものであることが要件であるところ、その物品の属する技術分野が、本件考案の「冷凍コンテナ」と甲第4号証の「衛生設備ユニット」とは明らかに格段に相違するものであるから、それら物品の構成をも要件とする本件考案と甲第4号証に記載のものとは、それぞれ各当業者にとってきわめて容易に考案をすることができない技術分野にある。

したがって、審決が、物品を離れて機能から見た上位概念の考案を認めず、共通の技術分野にはない甲第1号証記載の考案と甲第4号証記載の考案を結び付け組み合わせることは当業者にとって格別創意工夫を要せずにできるものではないとしたことは正当である。

また、本件考案と甲第4号証記載のものとは、その水密構造についても全く異なるものである。すなわち、本件考案は、コーナーカバーの両翼部を内張り板に圧接させて設置することにより、固定部であるブラインドリベット設置部分が水密となるようにコーナーカバーにより覆蓋しているものであり、その水密となる部分は固定部であるブラインドリベット設置部分であって、コンテナの隅角部すなわち四隅部分ではない。これに対して甲第4号証記載のものは、「従来の複雑な目地施工によっても不十分であった隅角部の防水が、この発明によれば目地材が互いに重なりあっているので、水滴、湿気等の外部への侵出を完全に防止できるものである。」(甲第4号証2頁右上欄15行ないし19行)との記載からしても、水密となる部分が隅角部であることは明らかである。すなわち、甲第4号証は、衛生設備ユニットの四隅部分における防水のための技術を示しているにすぎず、骨枠体と各パネルとを固着するビス設置部分における防水については何らの技術も示していない。

(2)  取消事由2について

甲第2号証記載の考案の技術的課題は、風呂の箱体ユニット等において組み立てられる構造物において、あくまでも壁材と壁材の継ぎ目から水漏れを防止するものであり、同号証記載のものは、本件考案における水密構造と同一のものとはいえない。また、甲第3号証に記載されたものは、その技術的課題及び具体的構成が明確でない。

したがって、甲第2号証及び第3号証記載のものを甲第1号証記載のものに適用することにより、本件考案のように構成することは当業者にとってきわめて容易になし得たものとはいえない。

(3)  取消事由3について

審決が、本件考案が「コーナーカバーにて、前記固定部材による該内装部材と該L形メンバとの固定部を水密に覆蓋せしめるように構成」されていることと、甲第1号証記載のものが「コーナーカバーの両端部と該内装部材の端部との接合面を水密に構成」されていることとを相違点の一つとして認定したことに誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件考案の要旨)及び同3(審決の理由)については、当事者間に争いがない。

2  本件考案の概要

本件考案の実用新案公報(成立に争いのない甲第6号証)には、「本考案は冷凍コンテナにおける内部隅部構造に係り、特に内装部材の端縁部を固定せしめる固定手段に対して水密性を改善せしめた内部隅部構造に関するものである。」(1欄20行ないし23行)、「冷凍コンテナの庫内には、積載物の積み換えごとに、内面に付着した汚物などを除去するため、水洗またはスチームクリーニングが施されるが、その際、内張り板14を固定するための木ネジ16、リベット18等の穴より内部の断熱材層20の中へ水または水蒸気が浸入することから、その断熱材層20は劣化して断熱性能が低下し、更には冷凍コンテナ自体の寿命が短縮せしめられるという重大な欠点があったのである。また、多数の木ネジ16やリベット18の頭部がコンテナ内面に露出していることは庫内の清掃上にも支障となるし、見た目にも好ましいものではなかったのである。」(2欄13行ないし25行)、「本考案は、かかる事情に鑑みて為されたものであって、各壁部に所定厚さの断熱材層を設け、且つ該断熱材層の内側を所定の内装部材にて内装してなる冷凍コンテナにおいて、該内装部材を固定するためのリベットまたはネジ等の固定部材による該内装部材に対する穴部を効果的に覆蓋して水密となし、以て前記断熱材層の劣化を防止し、且つコンテナ自体の寿命を永続化せしめ得るようにした内部隅部構造を提供することを目的とするものである。」(3欄2行ないし11行)と記載されていることが認められる。

3  取消事由に対する判断

(1)  審決の理由Ⅱ(審判時における原告の主張内容と証拠方法)、同Ⅲ(甲第1号証ないし第4号証の記載内容の認定)、同Ⅳ(本件考案と甲第1号証記載のものとの対比)のうち、相違点の認定において、甲第1号証記載のものにつき「該コーナーカバーの両端部と該内装部材の端部との接合面を水密に構成した」とした部分を除くその余の認定、同Ⅴ(1)のうち、甲第2号証に記載されたものは、風呂の箱体ユニット等において組み立てられる構造物の一つの壁材と他の壁材とを接合する構造に関するものであり、その技術的課題は壁材と壁材の継ぎ目からの水漏れを防止するものであること、甲第3号証には、「水洗いにより断熱性能が低下しない構造とされている」、「内張り取付けリベットの頭部はなるべく平滑とし、かつ該面よりの突出は極力少くしてある」と記載されていること、同Ⅴ(2)のうち、甲第4号証に記載されたものは、バスユニット、サニタリーユニット等の「衛生設備ユニットにおける目地材取付装置」に関するものであり、甲第1号証記載の冷凍ユニットを有する「海上コンテナの内部隅部構造」に関するものとは、「隅部の防水という機能ないし作用の点で共通するものであり、隅部の防水構造として一般に求められている目的ないし課題を考えれば、必ずしも異なった技術分野の考案とはいえない」とした部分、については当事者間に争いがない。

(2)  そこでまず、取消事由1の当否について検討する。

<1>  上記のとおり、甲第1号証に、「内部に充填する断熱材を覆う内張部材をそれぞれ装着した天井部、左右の各側壁、前端壁、開閉扉を設けた後端部と、床部材下部に断熱材を設けた床部とを含む長手直方体形状の貯蔵室及び該貯蔵室用の冷却手段を具備した海上コンテナにおいて、前記貯蔵室内の隅部を、該貯蔵室側に突出せる突部乃至は突条が存在しない、比較的曲率半径の大きな曲面を有する隅部材にて、滑らかに形成すると共に、該隅部材と前記内張部材との接合部を水密に構成したことを特徴とする海上コンテナの内部隅部構造。」(特許請求の範囲第1項)、「側壁の内張部材上端部と天井部の内張部材側壁部とをL字形部材をもって結合し、該L字形部材の両フランジ端部を水密に且つ比較的曲率半径の大きい滑らかな湾曲面により覆った特許請求の範囲第1項記載の内部隅部構造。」(特許請求の範囲第3項)、「その要旨とするところは、この隅部を比較的曲率の大きい曲面によって構成するとともに、十分な水密性を与えることにより、<1>飛散する汚濁物の滞留し難い、<2>洗浄容易な、<3>従来以上の強度を維持し得る、<4>水密性を有する、<5>冷却効果を損ねない、<6>食料品の積載スペースを減じない、内部隅部構造を提供することにある。」(3欄15行ないし21行)、「第3図は本発明の別の実施例を示す断面図である。同図において30は左側壁、31は天井部であり、32は側壁骨組部材、33は天井部骨組部材である。・・・この後、ナイロンリベット39a及び39bによって、隅部材38の垂直部38b及び水平部38cを、内張部材段付部34a及び35a、L字型部材36の各端部とともに、それぞれ側壁30及び天井部31の骨組部材32及び33に固定するとともに、隅部材38の両端と内張部材段付部34a及び34bとの接合面にはそれぞれコーキング処理を施すことにより、(40a及び40bにて示す)水密性を向上させる。」(5欄12行ないし6欄1行)、「本発明に従えば、貯蔵庫の構造を変更することなく、肉類等食料品が貯蔵庫内の隅部に滞留及び固着することを防止し得る。これにより、貯蔵庫内の洗浄作業が容易化され、汚濁物の除去は短時間にてしかも十分に達成されることとなる。さらに貯蔵スペース、冷却効果は全く損なわれない等、数々の効果を奏するものである。」(6欄18行ないし25行)と記載されており、第3図には別の実施例を示す断面図が記載されていること、上記のことから、甲第1号証には、「側壁及び天井部の内部に骨組部材、及び断熱材を設け、且つ該側壁内面及び該天井部下面を内張部材にて内装してなる海上コンテナにおいて、L字形部材を該コンテナの隅部に配し、該骨組部材に、該L字形部材の両端部と、該コンテナの隅部を構成する隣り合う内装部材の上端及び側端にそれぞれ設けられた段付部と、該コンテナ隅部を内側から覆うと共に、略円弧状の横断面形状を有する隅部材の両端部を、それぞれナイロンリベットにて固定せしめて連結する一方、該隅部材の両端部と該内張部材の段付部との接合面を水密に構成したことを特徴とする海上コンテナにおける内部隅部構造。」に関する技術的事項が記載されていることは、当事者間に争いがない。

そして、本件考案と甲第1号証記載のものとは、「各壁部に所定厚さの断熱材層を設け、且つ該断熱材層の内側を所定の内装部材にて内装してなる冷凍コンテナにおいて、L形メンバを該コンテナの隅部に配し、かかるL形メンバにその端部をそれぞれリベット、ネジ等の固定部材にて固定せしめて連結される該コンテナの隅部を構成する隣り合う内装部材と、該コンテナ隅部を内側から覆うと共に、略円弧状の横断面形状を有するコーナーカバーとを設けたことを特徴とする冷凍コンテナにおける内部隅部構造。」の点で一致することは当事者間に争いがなく、本件考案は、「角部内側に嵌合部を備えたL形メンバを該コンテナの隅部に配し、該L形メンバの角部内側の嵌合部に対して背部において凹凸嵌合構造にて嵌合せしめられて、保持され、固定部材を覆い、該固定部材がコンテナ内側に突出しないようにしたコーナーカバーを設け、該コーナーカバーにて、前記固定部材による該内装部材と該L形メンバとの固定部を水密に覆蓋せしめるように構成した」ものであるのに対し、甲第1号証記載のものは、「各壁部に骨組部材を設け、該骨組部材に、L形メンバの両端部と、内装部材の端部と、コーナーカバーの両端部を、それぞれリベット、ネジ等の固定部材にて固定せしめて連結する一方、該コーナーカバーの両端部と該内装部材の端部との接合面を水密に構成した」ものである点で相違するものである(甲第1号証記載のものにおいて「該コーナーカバーの両端部と該内装部材の端部との接合面を水密に構成した」ものであることは、上記争いのない甲第1号証の記載と第3図より明らかである。)。

<2>  本件考案における前記「内装部材を固定するためのリベットまたはネジ等の固定部材による該内装部材に対する穴部を効果的に覆蓋して水密となし、以て前記断熱材層の劣化を防止し、且つコンテナ自体の寿命を永続化せしめ得るようにした内部隅部構造を提供する」という目的は、相違点に係る本件考案の上記構成によって達成されるものと認められる。

他方、甲第1号証の前記記載によれば、同号証記載のものは、肉類等食料品が貯蔵庫内の隅部に滞留及び固着することを防止することができ、これによって貯蔵庫内の洗浄作業を容易化することができるとともに、水密性を有する内部隅部構造を提供することを技術的課題とするものであることが認められる。

しかして、甲第1号証には、審決の指摘するとおり、「冷凍コンテナの所定厚さの断熱材層の劣化による断熱性能の低下を完全に防止するために、コンテナ内面に露出しているリベット、ネジ等の固定部材の頭部を積極的に覆って、前記固定部材による内装部材とL形メンバとの固定部を水密に覆蓋して水漏れを防止する」という本件考案の技術的課題については具体的には記載されていないが、甲第1号証記載のものも、冷凍コンテナの内部隅部構造を水密性を有するものとすることを技術的課題としているものであって、この点は本件考案と共通しているということができる。また、内部隅部の水密性が得られれば、断熱材層の劣化を防止し得ることは当業者であれば当然予測できることである。

<3>  甲第4号証に、「この発明は、隅角部が非常に容易に納まるようにした目地材取付装置であり、すなわち骨枠体を組み、この骨枠体に内側より天井パネル、壁パネルをそれぞれ骨枠体が露出するように若干の間隙を設けて固着し、この露出させた骨枠体に帯状の目地材を、各パネルの端縁を覆い隠して取り付けるようにする」(1頁右下欄9行ないし15行)、「第2図はこの発明における目地材4の取付けの断面を示すもので、5は骨枠体であり、この骨枠体5にビス6で天井パネル1、壁パネル2を骨枠体5が露出するように若干の間隙を設けて固着している。骨枠体5にはパネルの接続間隙となる位置に目地材嵌着部7が設けられていて、この部分に目地材4の基部8が嵌着されて、目地材4は取り付けられ、この際目地材4の両縁9がパネルの端縁を覆い隠し、ビス6の頭も同時に隠すものである。」(2頁左上欄5行ないし14行)、「また、従来の複雑な目地施工によっても不十分であった隅角部の防水が、この発明によれば目地材が互いに重なりあっているので、水滴、湿気等の外部への侵出を完全に防止できるものである。」(2頁右上欄15行ないし19行)と記載されているとともに、第2図には目地材の取り付けを示す実施例断面図が記載されていることは、当事者間に争いがない。

甲第4号証の上記記載、及び甲第4号証中の「この発明は、施工容易で安価な隅角部において納まりのよいバスユニットにおける目地材取付装置に関するものである。」(1頁左下欄18行ないし末行)、「骨枠体を組み、この骨枠体に内側より天井パネル、壁パネルをそれぞれ骨枠体が露出するように若干の間隙を設けて固着し、この露出させた骨枠体に帯状の目地材を、各パネルの端縁を覆い隠して取り付けるようにするとともに、天井パネルの隅角部において、三方向からの上記目地材のうち少なくとも二方向からの目地材の先端を斜めに切り欠き、これを切り欠いた目地材の先端が最上にくるように三方向からの目地材の先端を重ねて納めたことを特徴とするバスユニットにおける目地材取付装置。」(特許請求の範囲)、「この発明は・・・骨組体を組み内側よりパネルを固着して形成する衛生設備ユニットにおいて、隅角部における目地の納めが容易で、手間がかからず、製作コストも安価となるものである。」(2頁右上欄11行ないし15行)との記載によれば、甲第4号証記載の考案は、衛生設備ユニットの隅角部における目地材取付けの施工容易性と防水性を技術的課題としているものと認められる。

ところで、甲第4号証の上記各記載によれば、同号証記載の衛生設備ユニットにおいて、目地材が防水のために取り付けられるものであることは明らかであるが、隅角部は隅部が三方向から一箇所で交叉する箇所であって、隅角部の防水は隅部の防水を前提とするものである。そして、目地材の取り付け断面図である第2図には、目地材が重なり合ったものが示されていないから、同図に示されているものは、隅角部におけるものではなく、1個の目地材を用いる箇所における断面図とみるのが相当であって、そのような箇所は天井パネルと壁パネル、あるいは壁パネルと壁パネルとの接合部すなわち隅部であるから、第2図は隅部における目地材の取り付けを示したものと認めるのが相当であり、この構造が隅部における防水機能を果たしているものと認められる。

そうすると、甲第4号証には、「角部内側に目地材嵌着部7を備えた骨枠体5を隅部に配し、かかる骨枠体5に、隅部を構成する隣り合うパネル1、2の端部をそれぞれビス6等の固定部材にて固定せしめて連結する一方、該骨枠体5の角部内側の目地材嵌着部7に対して背部において凹凸嵌合構造にて嵌合せしめられて、保持され、該隅部を内側から覆うと共に、該固定部材を覆い、該固定部材が内側に突出しないようにした、略円弧状の横断面形状を有する目地材4を設け、該目地材4にて前記固定部材による該パネルと該目地材4との固定部を水密に覆蓋せしめるように構成したバスユニットにおける内部隅部構造」が開示されているものと認められる。

そして、甲第4号証の上記「目地材嵌着部7」、「骨枠体5」、「パネル1、2」、「ビス6」及び「目地材4」は、本件考案における「嵌合部」、「L形メンバ」、「内装部材」、「固定部材」及び「コーナーカバー」にそれぞれ相当するものと認められるから、甲第4号証には、相違点に係る本件考案の構成に相当する「角部内側に嵌合部を備えたL形メンバを隅部に配し、該L形メンバの角部内側の嵌合部に対して背部において凹凸嵌合構造にて嵌合せしめられて、保持され、固定部材を覆い、該固定部材が内側に突出しないようにしたコーナーカバーを設け、該コーナーカバーにて、前記固定部材による該内装部材と該L形メンバとの固定部を水密に覆蓋せしめるように構成した」内部隅部構造が開示されているということができる。

<4>  ところで、甲第1号証記載の考案は冷凍コンテナに関するものであるのに対し、甲第4号証記載の考案は衛生設備ユニットに関するものであって、その対象とする物品自体は相違するが、両者は共に、その内部において水を扱い、その内部隅部から水又は水分が侵出することを防止する必要がある点で共通の課題を有しているものである。ちなみに審決も、両者について、「上位概念で捉えた場合には、『隅部の防水という機能ないし作用の点で共通するものであり、隅部の防水構造として一般に求められている目的ないし課題を考えれば、必ずしも異なった技術分野の考案とはいえない』という程度のものかも知れない」としている。

<5>  以上によれば、甲第1号証記載の冷凍コンテナの内部隅部構造に甲第4号証に開示されている内部隅部の上記防水構造を適用して、本件考案の構成を得ることは、当業者において格別の困難性を有することなくきわめて容易になし得たものと認めるのが相当である。

したがって、甲第1号証の構成を変更して、甲第4号証に記載されたものを組み合わせることによって、本件考案の構成を得ることが当業者にとって技術的に格別の困難性を有することなくきわめて容易になし得たとすることはできない、とした審決の判断は誤っているものといわざるを得ない。

<6>  被告は、物品の属する技術分野が、本件考案の「冷凍コンテナ」と甲第4号証の「衛生設備ユニット」とは明らかに格段に相違するものであるから、それら物品の構成をも要件とする本件考案と甲第4号証に記載のものとは、それぞれ各当業者にとってきわめて容易に考案をすることができない技術分野にある旨主張するが、単に考案の対象となる物品自体の属する技術分野が相違することから容易推考性を否定する根拠とすることは相当でなく、相違点として抽出された構成が他の公知文献に開示されているか否か、その構成は技術的課題を共通にするものであるか否かなどといったことをも考慮して判断すべきものであるから、被告の上記主張は採用できない。

また被告は、本件考案において、水密となる部分は固定部であるブラインドリベット設置部分であって、コンテナの隅角部すなわち四隅部分ではないのに対して、甲第4号証記載のものにおいて、水密となる部分は隅角部であって、同号証は衛生設備ユニットの四隅部分における防水のための技術を示しているにすぎず、骨枠体と各パネルとを固着するビス設置部分における防水については何らの技術も示していないのであって、本件考案と甲第4号証記載のものとは、その水密構造についても全く異なるものである旨主張するが、前記<3>に説示したところに照らして採用できない。

<7>  以上のとおりであって、本件考案は甲第1号証及び第4号証に記載された事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものということはできないとした審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由1は理由がある。

そして、審決の上記判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の取消事由について検討するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

4  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

<省略>

別紙図面3

<省略>

別紙図面4

<省略>

平成4年審判第432号

審決

東京都港区三田3丁目13番12号

請求人 日本フルハーフ 株式会社

東京都港区西新橋1-9-10 柏原ビル 大橋特許事務所

代理人弁理士 大橋勇

東京都港区西新橋1-9-10 大橋特許事務所

代理人弁理士 大橋良輔

大阪市中央区北浜4丁目7番28号

被請求人 日本トレールモービル 株式会社

東京都港区虎ノ門一丁目20番6号 明和ビル5階 藤木特許事務所代理人弁理士 藤木三幸

上記当事者間の登録第1869772号実用新案「冷凍コンテナにおける内部隅部構造」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする.

理由

Ⅰ. 手続きの経緯・本件考案の要旨

本件登録第1869772号実用新案(以下、「本件考案」という。)は、昭和57年4月30日に出願され、前審において昭和63年7月12日に出願公告(実公昭63-25510号)されたところ、異議の申立がなされ、平成2年1月17日にその登録異議の申立が理由があるものと決定されるとともに、同じ理由によって拒絶査定されたものである。その後、平成2年3月28日に拒絶査定不服の審判請求(平成2年審判第5084号)がなされ、平成3年5月15日に当該審判請求を認容する審決が確定し、平成3年10月24日にその設定の登録がなされたものである。

本件考案の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載よりみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの「各壁部に所定厚さの断熱材層を設け、且つ該断熱材層の内側を所定の内装部材にて内装してなる冷凍コンテナにおいて、角部内側に嵌合部を備えたL形メンバを該コンテナの隅部に配し、かかるL形メンバに、該コンテナの隅部を構成する隣り合う内装部材の端部をそれぞれリベット、ネジ等の固定部材にて固定せしめて連結する一方、該L形メンバの角部内側の嵌合部に対して背部において凹凸嵌合構造にて嵌合せしめられて、保持され、該コンテナ隅部を内側から覆うと共に、該固定部材を覆い、該固定部材がコンテナ内側に突出しないようにした、略円弧状の横断面形状を有するコーナーカバーを設け、該コーナーカバーにて、前記固定部材による該内装部材と該L形メンバとの固定部を水密に覆蓋せしめるように構成したことを特徴とする冷凍コンテナにおける内部隅部構造。」にあるものと認める。

Ⅱ. 請求人の主張

これに対し、請求人は、

(1)本件考案は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1~3号証に記載された事項に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、または、

(2) 本件考案は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1及び4号証に記載された事項に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、

従って、本件考案は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第1号の規定により無効とされるべきである、と主張し、証拠方法として、甲第1号証、甲第2号証、甲第2号証の2、甲第3号証、及び甲第4号証を提出している。

Ⅲ. 甲第1~4号証

(甲第1号証)

甲第1号証刊行物である特公昭56-21669号公報の、特に第1ページ第1欄第21~32行目、同ページ第2欄第2~6行目、第2ページ第3欄第15~21行目、第3ページ第5欄第12行目~同ページ第6欄第1行目、同ページ第6欄第18~25行目には、「特許請求の範囲(1)内部に充填する断熱材を覆う内張部材をそれぞれ装着した天井部、左右の各側壁、前端壁、開閉扉を設けた後端部と、床部材下部に断熱材を設けた床部とを含む長手直方体形状の貯蔵室及び該貯蔵室用の冷却手段を具備した海上コンテナにおいて、前記貯蔵室内の隅部を、該貯蔵室側に突出せる突部乃至は突条が存在しない、比較的曲率半径の大きな曲面を有する隅部材にて、滑らかに形成すると共に、該隅部材と前記内張部材との接合部を水密に構成したことを特徴とする海上コンテナの内部隅部構造。」、「(3)側壁の内張部材上端部と天井部の内張部材側壁部とをL字型部材をもって結合し、該L字型部材の両フランジ端部を水密に且つ比較的曲率半径の大きい滑らかな湾曲面により覆った特許請求の範囲第1項記載の内部隅部構造。」、「その要旨とするところは、この隅部を比較的曲率の大きい曲面によって構成すると共に、十分な水密性を与えることにより、<1>飛散する汚濁物の滞留し難い、<2>洗浄容易な、<3>従来以上の強度を維持し得る、<4>水密性を有する、<5>冷却効果を損ねない、<6>食料品の積載スペースを減じない、内部隅部構造を提供することにある。」、「第3図は本発明の別の実施例を示す断面図である。同図において30は左側壁、31は天井部であり、32は側壁骨組部材、33は天井部骨組部材である。(中略)この後、ナイロンリベット39a及び39bによって、隅部材38の垂直部38b及び水平部38cを内張部材段付部34a及び35a、L字型部材36の各端部とともに、それぞれ側壁30及び天井部31の骨組部材32及び33に固定するとともに、隅部材38の両端と内張部材段付部34a及び34bとの接合面にはそれぞれコーキング処理を施すことにより、(40a及び40bにて示す)水密性を向上させる。」、「本発明に従えば、貯蔵庫の構造を変更することなく、肉類等食料品が貯蔵庫内の隅部に滞留及び固着することを防止し得る。これにより、貯蔵庫内の洗浄作業が容易化され、汚濁物の除去は短時間にてしかも十分に達成されることとなる。さらに貯蔵スペース、冷却効果は全く損なわれない等、数々の効果を奏するものである。」と記載されていると共に、第3図には本発明の別の実施例を示す断面図が記載されている。

このことから、甲第1号証刊行物には、「側壁及び天井部の内部に骨組部材、及び断熱材を設け、且つ該側壁内面及び該天井部下面を内張部材にて内装してなる海上コンテナにおいて、L字形部材を該コンテナの隅部に配し、該骨組部材に、該L字形部材の両端部と、該コンテナの隅部を構成する隣り合う内張部材の上端及び側端にそれぞれ設けられた段付部と、該コンテナ隅部を内側から覆うと共に、略円弧状の横断面形状を有する隅部材の両端部を、それぞれナイロンリベットにて固定せしめて連結する一方、該隅部材の両端部と該内張部材の段付部との接合面を水密に構成したことを特徴とする海上コンテナにおける内部隅部構造。」に関する技術的事項的が記載されているものと認める。

(甲第2号証)

甲第2号証刊行物である実願昭47-51705号(実開昭49-14008号公報参照、昭和49年2月6日出願公開)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの、特に明細書第1ページ第11~14行目、第2ページ第15行目~第3ページ第12行目、及び第4ページ第15~19行目には、「本考案は、風呂の箱体ユニットなどを構成する壁パネル等の接続部密閉装置に関し、その目的とするところは密閉状態を確実なものにするとともに接続作業を容易に行なえるようにすることにある。」、「図において(1)は壁パネル等の被接続板で、その端部(2)はL状に折曲して接続部間(t)を構成するように対設してある。(3)は上記端部(2)にビス(4)で固着することにより被接続板(1)を接続した接続金具で、L字状に折曲してあり、中央の角部からは先端部に錨型の凸部を形成した係止部(5)が接続部間(T)に向けて突設してある。(6)は上記接続部間(T)を密閉するパッキンで、硬質合成樹脂等で形成してある。このパッキン(6)は略中央部に接続部間(T)へ突出し、先端部に錨型の凹部を形成した被係止部(7)を突設して前記接続金具(3)の係止部(5)に嵌着し、接続部間(T)を密閉している。(8)は被接続板(1)を接続して構成した箱体ユニットを立設する防水床、(9)は被接続板(1)の裏面に位置する壁である。上記構成において、パッキン(6)は接続金具(3)の係止部(5)に被係止部(7)を嵌着して固着し、両端部を被接続板(1)に当接させて接続部間(T)を密閉している。」、「(A)パッキンは接続金具に固着して接続部間を密閉するので、接続部間の隙間にばらつきがあったり、あるいは雰囲気温度が変化したり、外力が加わっても接続部間を確実に密閉することができる。」と記載されている。

また、甲第2号証の2刊行物である実開昭49年14008号公報には、甲第2号証刊行物の要部が記載されている。

(甲第3号証)

甲第3号証刊行物である「冷凍コンテナ便覧」(上村健二著、株式会社成山堂書店発行、昭和49年1月18日初版発行)の、特に第99ページ第7~9行目、第100ページ第3~4行目、及び第111ページ第6~13行目には、「冷凍コンテナは側壁、端柱と内張りの間に硬質塩化ビニールなどで作られた熱絶縁材(スペーサー)を取付け、外板と内張りの間に断熱材(硬質ポリウレタンフォーム)が充填され、前端部に冷凍ユニットが取付けられている。」、「また冷凍コンテナ内部は水洗いが容易で、かつ水洗いにより断熱性能が低下しない構造とされている。」、「内部前端壁には特に耐衝撃性良好な(ABS板厚6mm)を側壁天井にはFRP(板厚2mm)を使用し水洗い可能な構造としている。内張り板は修理に便利なように適当に分割したFRP及びABS一体成形品で、内張り板の継ぎ目はすべてシール剤を充填し気密構造となっており、また内張り板にはバッテンを設け、冷風循環作用を良くするとともに荷崩れ防止作用の働きもしている。内張り取付けリベットの頭部はなるべく平滑とし、かつ該面よりの突出は極力少くしてある。」と記載されている。

(甲第4号証)

甲第4号証刊行物である特開昭52-19442号公報(昭和52年2月14日出願公開)の、特に第1ページ右下欄第9~15行目、第2ページ左上欄第5~14行目、及び同ページ右上欄第15~19行目には、「この発明は、隅角部が非常に容易に納まるようにした目地材取付装置であり、すなわち骨枠体を組み、この骨枠体に内側より天井パネル、壁パネルをそれぞれ骨枠体が露出するように若干の隙間を設けて固着し、この露出させた骨枠体に帯状の目地材を、各パネルの端縁を覆い隠して取り付けるようにする」、「第2図はこの発明における目地材4の取付けの断面を示すもので、5は骨枠体であり、この骨枠体5にビス6で天井パネル1、壁パネル2を骨枠体5が露出するように若干の隙間を設けて固着している。骨枠体5にはパネルの接続隙間となる位置に目地材嵌着部7が設けられていて、この部分に目地材4の基部8が嵌着されて、目地材4は取り付けられ、この際目地材4の両縁9がパネルの端縁を覆い隠し、ビス6の頭も同時に隠すものである。」、「また、従来の複雑な目地施工によっても不十分であった隅角部の防水が、この発明によれば目地材が互いに重なりあっているので、水滴、湿気等の外部への侵出を完全に防止できるものである。」と記載されていると共に、第2図には目地材の取り付けを示す実施例断面図が記載されている。

Ⅳ. 対比

本件考案(以下、前者という。)と甲第1号証刊行物に記載された前記技術的事項(以下、後者という。)とを対比すると、後者の「側壁及び天井部の内部」、「断熱材」、「側壁内面及び天井部下面」、「内張部材」、「海上コンテナ」、「L字形部材」、「内張部材の上端及び側端にそれぞれ設けられた段付部」、「隅部材」、及び「ナイロンリベット」は、それぞれの機能に照らして、前者の「各壁部」、「所定厚さの断熱材層」、「断熱材層の内側」、「所定の内装部材」、「冷凍コンテナ」、「L形メンバ」、「内装部材の端部」、「コーナーカバー」、及び「リベット、ネジ等の固定部材」に相当するので、後者は「各壁部に骨組部材、及び所定厚さの断熱材層を設け、且つ該断熱材層の内側を所定の内装部材にて内装してなる冷凍コンテナにおいて、L形メンバを該コンテナの隅部に配し、該骨組部材に、該L形メンバの両端部と、該コンテナの隅部を構成する隣り合う内装部材の端部と、該コンテナ隅部を内側から覆うと共に、略円弧状の横断面形状を有するコーナーカバーの両端部を、それぞれリベット、ネジ等の固定部材にて固定せしめて連結する一方、該コーナーカバーの両端部と該内装部材の端部との接合面を水密に構成したことを特徴とする冷凍コンテナにおける内部隅部構造。」であると認められるから、両者は、「各壁部に所定厚さの断熱材層を設け、且つ該断熱材層の内側を所定の内装部材にて内装してなる冷凍コンテナにおいて、L形メンバを該コンテナの隅部に配し、かかるL形メンバにその端部をそれぞれリベット、ネジ等の固定部材にて固定せしめて連結される該コンテナの隅部を構成する隣り合う内装部材と、該コンテナ隅部を内側から覆うと共に、略円弧状の横断面形状を有するコーナーカバーとを設けたことを特徴とする冷凍コンテナにおける内部隅部構造。」の点で一致し、下記の点で相違する。

(相違点)

前者は、「角部内側に嵌合部を備えたL形メンバを該コンテナの隅部に配し、該L形メンバの角部内側の嵌合部に対して背部において凹凸嵌合構造にて嵌合せしめられて、保持され、固定部材を覆い、該固定部材がコンテナ内側に突出しないようにしたコーナーカバーを設け、該コーナーカバーにて、前記固定部材による該内装部材と該L形メンバとの固定部を水密に覆蓋せしめるように構成した」ものであるのに対し、後者は、「各壁部に骨組部材を設け、該骨組部材に、L形メンバの両端部と、内装部材の端部と、コーナーカバーの両端部を、それぞれリベット、ネジ等の固定部材にて固定せしめて連結する一方、該コーナーカバーの両端部と該内装部材の端部との接合面を水密に構成した」ものである点。

Ⅴ. 当審の判断

そこで、上記相違点について以下検討する。

(1)請求人の主張(1)について

甲第1~3号証刊行物に記載されたものについて以下検討する。

甲第2号証刊行物に記載されたものは、風呂の箱体ユニット等において組み立てられる構造物の一つの壁材と他の壁材とを接合する構造に関するものであり、その技術的課題はあくまでも壁材と壁材の継ぎ目からの水漏れを防止するものであり、また、甲第3号証刊行物に記載されたものは、冷凍コンテナに関する一般的な技術的事項であり、「水洗いにより断熱性能が低下しない構造とされている」と記載されているものの、「内張り取付けリベットの頭部はなるべく平滑とし、かつ該面よりの突出は極力少くしてある」とも記載され、その技術的課題及び具体的構成が必ずしも明確ではないのに対し、前者は、「冷凍コンテナの所定厚さの断熱材層の劣化による断熱性能の低下を完全に防止するために、コンテナ内面に露出しているリベット、ネジ等の固定部材の頭部を積極的に覆って、前記固定部材による内装部材とL形メンバとの固定部を水密に覆蓋して水漏れを防止する」ことを技術的課題としたものであり、その技術的課題を異にするものであるから、後者に甲第2及び3号証刊行物に記載されたものを適用することにより、前者のように構成することが、当業者にとってきわめて容易になし得たとすることはできない。

結局、本件考案と甲第1~3号証刊行物に記載されたものとは、そもそも技術的課題及び構成に於いて相違するものであるから、効果について言及するまでもなく、本件考案は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1~3号証に記載された事項に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと言うことはできない。

(2)請求人の主張(2)について

甲第1及び4号証刊行物に記載されたものについて以下検討する。

<1>後者は、「海上コンテナの内部隅部構造において、肉類等食料品が貯蔵庫内の隅部に滞留及び固着することを防止し、これにより貯蔵庫内の洗浄作業を容易にする」ことをその技術的課題とするものであるが、甲第1号証刊行物には、「冷凍コンテナの所定厚さの断熱材層の劣化による断熱性能の低下を完全に防止するために、コンテナ内面に露出しているリベット、ネジ等の固定部材の頭部を積極的に覆って、前記固定部材による内装部材とL形メンバとの固定部を水密に覆蓋して水漏れを防止する」という前者の技術的課題については、何ら記載されておらず、また示唆もされていない以上、甲第1号証刊行物には、当業者にとって後者の構成を変更し、上記相違点に係る前者の構成を得るための起因ないし契機(動機づけ)となり得るものが記載されておらず、また示唆されているとも言えない。

<2>甲第4号証刊行物に記載されたものは、バスユニット、サニタリーユニット等の「衛生設備ユニットにおける目地材取付装置」に関するものであり、後者の冷凍ユニットを有する「海上コンテナの内部隅部構造」に関するものとは、両技術を上位概念で捉えた場合には、「隅部の防水という機能ないし作用の点で共通するものであり、隅部の防水構造として一般に求められている目的ないし課題を考えれば、必ずしも異った技術分野の考案とはいえない」という程度のものかも知れないが、後者は、「海上コンテナの内部隅部構造において、肉類等食料品が貯蔵庫内の隅部に滞留及び固着することを防止し、これにより貯蔵庫内の洗浄作業を容易にする」ことをその技術的課題として解決を図るものであり、上位概念として捉えられるような単なる隅部の防水をどのような構造で行うかということを技術的課題として解決を図ろうとしたものでも、上記甲第4号証刊行物に記載されたもののように衛生設備ユニットの目地材をどのように取り付けるかということを技術的課題として解決を図ろうとしたものでもない以上、上記甲第4号証刊行物に記載されたものは、後者と、後者の技術的課題に関連した技術分野において共通しておらず、後者に上記甲第4号証刊行物に記載されたものを結び付け組み合わせることが当業者にとって格別創意工夫を要せずに出来たとは言えない。

<3>前者は、冷凍コンテナの所定厚さの断熱材層の劣化による断熱性能の低下を完全に防止するために付加的に別体のコーナーカバーを設けるものであって、コーナーカバーが無くても冷凍コンテナとしての機能は一応果たすことができる(この場合には、断熱材層の劣化は生じるかもしれないが)のに対し、甲第4号証刊行物に記載されたものは、バスユニット、サニタリーユニット等の衛生設備ユニットにおいて、パネルの接合端に生ずる線条の隙間からの水滴、湿気等の外部への侵出を防止する目地材に関するものであって、目地材が無ければ外部への水漏れが絶対にあってはならない部分に水漏れが生じて、バスユニット、サニタリーユニット等の衛生設備ユニットとしての機能を果たすことができなくなるものである以上、甲第4号証刊行物に記載されたものは、その機能から見て上記相違点に係る前者の構成を得ることができるものとは言えない。

以上の3点を併せて総合的に判断すると、後者の構成を変更して、甲第4号証刊行物に記載されたものを組み合わせることによって、前者の構成を得ることが当業者にとって技術的に格別の困難性を有することなくきわめて容易になし得たとすることはできない。

結局、本件考案と甲第1及び4号証刊行物に記載されたものとは、そもそも技術的課題及び構成に於いて相違するものであるから、効果について言及するまでもなく、本件考案は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1及び4号証に記載された事項に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと言うことはできない。

Ⅵ. むすび

従って、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件考案を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年3月18日

審判長 審判官 (略)

審判官 (略)

審判官 (略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例